全国裂織ニュース23号
 

エコデザイン、エコプロダクツ、そしてサルテナブルデザイン
今の暮らし あしたにつなぐ、 美しく
益田 文和

益田文和氏
益田 文和氏
 デザインをする上で地球環境などという大げさとも思える背景について考えるようになったのはいつの頃からだろうか。私はインダストリアルデザインという工業製品を扱う領域を専門とし、家電製品をはじめ比較的荒っぽい大量生産ものを手がけてきたこともあって、理不尽な公害の惨状や、世界的な環境保護運動の動静などは学生の頃から気になっていた。しかし、世界の文明や経済活動と地球環境の間の、のっぴきならない関係が頭の中では理解できても、そのことと目の前の仕事とがどのように関連するのかということになると、そこの部分の連絡が皆目リアリティを持って見えてこなかった。そのもどかしさが解消し、目が覚めるような思いがしたのは、海外の友人二人のお陰であった。

 
ファッションショー
o2によるオーガニックコットンのファッションショー デンマークの環境大臣も自らモデルをつとめた。
その一人は1989年にヨーロッパ7カ国の7人の仲間を集めてo2(オートゥー)という環境を考えるデザイナーのグループを作ったニルス・ピーター・フリントというデンマーク人である。彼らはまず、綿製品ができる過程を丹念にさかのぼり、綿の種が撒かれて育てられ収穫され製品に加工されるまでの間に、今日、どれほど大量の化学肥料や、殺虫剤、ホルモン剤や漂白剤などの化学薬品が使われているのか、その結果いかに深刻な土壌汚染や、作業者の健康被害が生じているかを調べていった。その上で、そうした化学物質を使わずに育てたオーガニックコットンを普及させようと、服のデザインからファッションショーまで、彼らにできること全てを実行したのである。綿糸一本をたどることで、デザインが地球の環境と直接的に深く関わっていることが見えてくる。O2 GLOBAL NETWORKは今日では、世界中のデザイナーをつなぐ仕組みとなっている。

 もう一人は、インターナショナル・デザイン・リソース・アウォード(IDRA)という、素材のリサイクルをテーマとしたデザインコンペティションを始めた、トム・ジョンソンというアメリカ人である。1995年以来6回に亘って開催されたこのデザインコンペを通してエコデザインの中に一つのジャンルを確立したのであるが、世界中から寄せられた何百という入選作品の質と量もさることながら、その応募者達の心をつかんだ「記憶のデザイン」というテーマが持つ意味が大きい。素材はどこから来て、どこへ行こうとしているのか。素材は、その過去と未来の記憶を宿している、というIDRAのメッセージは、リサイクルを単なる素材の再利用にとどまらず、素材によってよみがえる人々の記憶を手がかりに、新たな価値を生み出すデザインへと高めたのである。2003年には第6回IDRAを日本で開催した。
レコード盤のボール ブラインドの定規
レコード盤に熱を加えてプレスしただけのボール オフィスのブラインドのはねで作った定規


 わが国においてデザイナーが主導するかたちでのエコデザインに関する活動は、1995年に京都鹿ケ谷の法然院で私達が開催したワークショップ、「天然デザイン」をもって嚆矢とするといっても過言ではなかろうといささか自負しているのだが、それ以降の10年余り日本のエコデザインは、いわゆるデザインというよりは産官学が協同するエンジニアリングの一大プロジェクトとして目覚しい発展を遂げた。その成果は環境効率を大幅に高めた高性能なエコプロダクツの数々として製品化され、1999年以来毎年開催されるエコプロダクツ展で発表、展示されてきた。この、世界に類を見ない環境優良商品の展示会は年を追うごとに大きくなり、8回目のエコプロダクツ2006の来場者は15万人を越えるまでになったのである。

 こうしたエコデザインの成果は地球環境に対してどのような効果をもたらしたのだろうか。結論から言えば、例えば地球温暖化の原因となるCO2の排出量を見ても、削減目標達成は程遠く、状況は悪化するばかりである。それはなぜなのか。問題の本質は相変わらず資源とエネルギーの消費に依存する産業経済の仕組みと、その枠組みの中で物質的豊かさを追い求める消費態度を変えることができず、消費者という立場に甘んじる人々の価値観にあるのは明らかである。
ギアのフォトフレーム
自転車のギアをそのまま使ったフォトフレーム。

 このジレンマを乗り越えるには、人々が今後何世代にもわたって続けてゆくことができるサステナブルな社会を構想し、その実現に向けた行動計画を立ててゆく必要がある。私達は、今こそデザイナーの構想力と想像力を総動員し、サステナブルな社会のシナリオを描くとともに、そこでの暮らしの衣食住をかたち作るサステナブルデザインに取り組もうと呼びかけ、2006年12月に第一回サステナブルデザイン国際会議を開催した。

 社会のサステナビリティとは、実は何気ない平凡な日常を続けてゆける、ということに他ならない。ところが、そのためにわれわれの価値観や美意識を根底から問い直すことが求められているのである。しかし、それは決して不可能なことではない。その証拠に先に紹介した私の友人たちが訴えようとしていたことの全ては「裂き織り」の美しいきれの中にすでに織り込まれているではないか。

(ますだ ふみかず デザインコンサルタント 東京造形大学デザイン学科教授 潟Iープンハウス代表取締役 LLPエコデザイン研究所所長 o2 Japan代表)