全国裂織ニュース19号
 

目指す道は「平成の新たな民芸」運動
富山 弘基

富山弘基さん
富山 弘基さん
 日展の傘下に幾つかの美術工芸団体があって、ここで芸術的感性とテクニックの向上に努めて、日展の入選をめざすことになります。
 日本の美術工芸界には、絵画のみのもの、絵画・彫刻、純美術と美術的工芸・書道など幅広い分野を抱含するもの。また、工芸のみのものなどさまざまな公募団体があります。
 第45回記念「日本現代工芸美術展」は(社)現代工芸美術家会主催の日展系の美術工芸団体ですが、今回の受賞作品の中に裂織による制作品が2点も入賞されていました。現代工芸賞タピスリー「黎明」野中ひろみさん、新人賞タピスリー「燦燦」安本十九子さんの作品でした。
 タピスリーは綴織が技法の主流であることには変わりありませんが、裂織を前面に打ち出した作品の進出は近年のことです。裂織のルーツは言うまでもなく寒村の庶民が辛苦の生活の中で考えついた、創作織物です。江戸時代の中期頃の発生と思われますが、時代と共に形も用途も広まり意匠にも美を伴い育まれてきました。
 戦前には都会の女性もおしゃれ帯に好んでいたことを私も覚えています。
 染織にはそれぞれに異なった発生の理由と発達の歴史があります。その中でも比較的に歴史の浅い裂織には、その歴史の証となる資料が多く現存し、それを話せる人たちがまだ健在であることに、裂織への関心はいっそう高まり、人々と裂織の生活実感を知ることが出来るのは、他の染織にはない親近感にみたされるところがあります。
 全国裂織協会は各地で裂織を伝承していた人々が、協会を通じて地の裂織活動の情報を共有することに、大きな役割を果たしています。そして、裂織発生時の精神性を大切にしながら、新たなる裂織の世界に挑戦される各地の動きが「全国裂織ニュース」で伝えられます。
 私はこのことを昭和初期に興った民芸運動(民衆工芸)と重ね合わせて、協会のめざす道は「平成の新たな民芸」運動ではないかと胸をふくらませて今後の展開に期待度は高まります。
 ここで日本の染織分野の構造を説明しておきたいと思います。大別して八つに分類できます。
  (1)染織工芸(和装部門)=伝統の技術・意匠・素材を保存するもの/伝統に新規な要素を加味して現代にふさわしいもの作りをめざす分野。
  (2)美術をめざす染織=絵画にはない染織の技術で鑑賞を目的とした美の表現を制作するもの。これは昭和初期から萌芽した新しい分野。
  (3)装飾美術としての染織=のれん・間仕切りそのほか室内空間を満す美の分野。
  (4)ファイバーアート=前衛的な造形物を様々な繊維や布を使って制作するもの。
  (5)服飾ファッション染織(洋装部門)=工業的に量産されるものと、作家的視点で手作りされるもの。ここでは後者。
  (6)印染(しるしぞめ)=旗・幟・幕・風呂敷・手拭などを制作する染色分野。
  (7)趣味的な手工芸染織=自身の精神性を豊かにするため、教養的にかかわり楽しむもの。
  (8)1〜7の分類の範ちゅうに入らないもの。
 裂織による作品は(6)の印染以外の染織分野にすべて生かすことが出来る、貴重な織物であることがわかります。
 感性は磨けば無限、失敗は成長を促す、創作に当たっては自己主張を鮮明に。そして、清潔感のある作品を“愛”を込めて制作していただきたいと、ねがってやみません。

(顧問  染織と生活社取締役)