裂織人を訪ねて・・・第4回 (06年1月31日)

ジーンズ裂織のパイオニア

門 田 杏 子 さん (神奈川県横浜市)

訪問者 深堀 習、飯泉美耶子
訪問記 飯泉美耶子

門田杏子作: 裂織によるジーンズラグ   (撮影:小川忠博)

海外に飛び出したジーンズ・ラグ

 2005年、門田杏子さんのジーンズ・ラグが、韓国ソウルの超高級ホテル「パーク・ハイアット・ソウル」のプレジデンシャル・スイート・ルームを飾った。紫を基調にした1枚(幅4,5メートル、長さ4,1メートル)は、ソファのエリアを、もう1枚の黄色のラグ(幅3,7メートル、長さ2,45メートル)は、ベッドの周辺を彩っている。制作を依頼され、完成するまでのお話を伺いながら、これは、門田さんのジーンス裂織の集大成なのではないか。そんな思いを巡らせていた。

 2階の工房にある、幅100センチメートルを織れる機(Glimakrn)のビーターに錘をつけて、紫の6枚の織布を織った。それを階下の居間に運んで、繋ぎ合わせた。完成したラグを、近くの知人宅の広間を借りて、写真に撮った。「それがまた重いのね・・・」。制作当時を思い出すため息が漏れる。一般に裂織に扱う絹布や綿布と違って、ジーンズ裂織は、材料の準備から製織、仕上げまで、想像を絶する重労働である。細身の門田さんのどこから、そんなエネルギーが溢れてくるのだろうか。豊かな感性。独創的なひらめき。強靱な体力。持続する根気。それらがひとつになって、”カドタ・ワールド”を展開しているのだと、感じた。

新たな材料・ハンカチの端布

 横浜市青葉区美しが丘。町名に相応しく、樹木の茂みが豊かで、起伏の多い丘が続く。そこに、夫の博さん(建築家)が設計した門田家がある。子ども部屋だった2階の3部屋が増改築され、工房・書斎になっている。洗濯して棚に積まれているジーンズ。さまざまな色に染められて綛(かせ)になった裂布、白いハンカチの端布の大きな綛が、吊り下げられている。その他、膨大な材料が整理されて、出番を待っている。

織り上がったばかりのベッドカバー。画像をクリックすると、大きな画像を見ることができます。
 機から下ろされたばかりのベッドカバーが、ふんわりと広げられている。幅160センチメートル、長さ250センチメートルの綾織のそれは、80センチメートル幅の二重織りで織った。種々の紅葉のように、明るいオレンジから赤系統の微妙な色合いが織り出されて、美しい。門田さんの今までの持ち味とは異なった作品に、感嘆の声があがる。ハンカチ工場から出る端布を使って、新たに取り組んだ快心の第1作である。

 「ジーンズとはまったく違うので、この材料をどう活かそうか。ずいぶん考えました。ベッドカバー。幅はどのくらい? 色も、思うままに染めて。試し織りで変わったのを試して。当たり前じゃ面白くない・・・。」
 機では、同じ材料による次の作品の制作が始まっている。これも二重織りだ。今度の色合いは、ぐっと渋い。傍には、試し織りされた小さな布が重なっている。

織りへの挑戦と展開

 門田さんの卒業論文のテーマは「日本の色彩」であった。あるデザイン研究所に勤めてまもなく、郡上紬の色彩の美しさに魅せられ、紬織人間国宝の故・宗廣力三氏に師事した。門田さんの織りの原点だが、その決断の後押しをしてくれたのが、母上の存在だった。「3年前、母の葬儀に向かう車の中に、あのジーンズ・ラグの注文の電話が入りました」。そう語る門田さんの胸中には、自分の世界をしっかり持った母親の生き方と、ジーンズ・ラグに凝縮された自分の織りの世界とが、交差していたのだろう。

 郡上織の手ほどきからしばらくは、着尺を織った。結婚後は、3人の息子の着古したジーンズを、織りの材料にすることを思いたった。「褪色のグラデーションが美しく感じられて、捨てられませんでした。マフラーやショールを織りながら、人の輪は広がっていました。でも、織り続けるのには、他の人とは違ったものに挑戦しなければと、考えたのです。それがジーンズを使った裂織で、その道を拓いてくれました。今でいえば、織りの分野で、”隙間”を求めたのですね」。

立体的な裂織作品へ

 2005年秋、ニューヨークのギャラリーで開催された展覧会、”JEANS CONTINUES(ジーンズは生きる)”に「裂織草履の造形」を出品した。2006年12月、同じギャラリーで開かれる”ADJUSTABLE OBJECT(型をかえられるオブジェクト)展”に、「チェス」を出品する予定である。

 2005年には、門田さんの作品「キャップ・アンド・ベスト」が注目された。これは、撚ったジーンズ裂布を二重織りの緯に織り込んで、機から下ろしてから編み繋ぐ。根元的でシンプルな力強さを狙う、立体的な作品である。第3回全国裂織展長野移動展の折り、八ッ岳美術館で開催された講演で、門田さんは話している。「キャップ・アンド・ベストが、縄文人の編布織(あんぎんおり)に通じているので、驚きました」と。


「創作市場」別冊19号 ”織染”より転載. カメラ:杉本雅実


 ジーンズ裂織を手がけてから四半世紀。良質で実用的なラグだけでなく、立体的な草履やキャップ・アンド・ベストなど、より楽しく自由な制作活動も合わせて続けていきたいと、彼女の創作の意欲は、さらにふくらんでいく。

                                      
                       (撮影 飯 泉 仁)

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