裂織人を訪ねて・・・第10回 (07年2月7日訪問)

「 見事な美意識に貫かれた 暮らしと裂織 」

小 林 純 子 さ ん
(神奈川 県 鎌倉 市)

訪問 深堀 習、飯泉美耶子

訪問記 飯泉美耶子

 裂織布地の数々と、用いた布地のサンプル(右)と試し織り(左)の収められているスクラップ・ブック。

 2006年夏、全国裂織協会はフェア開催で賑わっていたが、それに重なる時期、東京ビッグサイトで「エコプロダクツ展 in GDP」があった。多忙だった協会では、4人の会員に参加を依頼し、小林純子さんは裂織バッグを出品。その経験を裂織ニュース21号に報告している。布の生命の再生を工夫した裂織が、エコGOODデザインとして共感を呼んだ。そんな縁から、2006年12月開催の展示会「エコプロダクツ展」には、小林さんが企画・構成を担当した全国裂織協会会員15名の「テーブル・ランナー物語」が出展された。地味ながら実力派と聞く小林さんは、どんな裂織人なのだろう。興味を持った。


   落ち着いた色に溢れる住まい

 小林さんは、結婚後、転勤の多い夫の昭さんと、広島、佐賀、松本と各地に転居し、現在は相模湾を臨む七里ケ浜に住んでいる。純子さんは日本の布地の美しさにひかれ、布が好きだ。昭さんの赴任先では、古道具の店を回っては、裂織の帯を眺めて、時の経つのを忘れるほどだったという。

 玄関を入ると、趣味のよいインテリアに目を奪われた。住む人の感性が溢れている。アジアやアフリカの布・紙・樹皮を材料にしたマット、ラグ、カーテン、その他。手作りが多いが、購入したものも交じる。アフリカ原住民が祭事に使ったお面。風を受けると「カチッ、カチッ」と賑やかな音を弾かせ、鳥を驚かす仕掛けのバリ島の鳥追いのおもちゃ。これらひとつ、ひとつ、夫妻の共通の趣味によって選んだという。同じ色調のアース・カラーでホットすると同時に、住む人の一貫した趣向が窺えて、見事だ。静謐な空間に、遊び心と手作りの温もりが漂っている。

 そこに、数種類の同系色の裂糸が用いて、微妙なグラディエーションを織り出した小林さんの裂織布が広げられている。思わず撫でたくなる。お互いの裂糸に宿る色彩が、「やあ、こんにちは」と、楽しげに溶け合っている。鮮やかな色彩ではないのに、光を織り込んだかのように、あたたかく輝いている。どこか、インテリアと通じる裂織布である。

 裂織作家になる

 小林さんは、大学では現代思想を専攻し、民俗研究会の部活に参加した。卒業後、さらに美術短大の造形学科に進学。テキスタイル・デザインを専攻し、実技で織りを学んだ。卒業後数年間、普通の職に就き、結婚。その間に、裂織を本格的に覚え、面白さに目覚めていく。さまざまな素材を使って織りを続けたが、「自分には、裂織がいちばん合っていると思ったのです」と語る。この時期は、裂織作家への助走期間といえる。以来、裂織だけを織っている。特定の先生はいないし、グループにも属していない。現在は、織りの時間が欲しいので、教えることもしない。

 裂織活動は、多彩な作家歴が物語っている。1989年から参加を始めた企画展やグループ展。日本クラフト展入選、朝日現代クラフト展奨励賞や日本民藝館展日本民藝協会賞などの受賞。それに並行して、毎年テーマのある裂織個展(裂織の領域展・裂織布の衣展・循環する布裂織展・裂織布手仕事のかたち展など)を開催している。2002年からは、布地を扱う「HABU」(ニューヨーク)で、裂織布の販売もしている。


 工房と作業

 織りの工房に誘われ、驚く。天井に設けられた組木の梁に、美術館の照明に似た移動可能のライトが並ぶ。東側の壁に高窓があって、そこからの光を背に置かれた大小の機。戸棚の扉を開けると、色調の違いで分類された布地が、整然と重ねられて納まっている。染め物用のコンロと水道の近くには、大きな寸胴鍋や洗い桶がある。本格的に設計された15畳ほどの工房は、機能性に溢れている。その空間に、純子さんは身を置いて、朝の9時には機に向かう毎日だ。「午前中の光が、織りの表情がよくわかって、最高ですね」。

工  房


 裂糸は、主に古着の和服地を使う。色合いを検討して選んだ布は、固めにクルクルと筒状に巻いて、ナイフで切る。幅3ミリから5ミリと、裂織の目的によって決まってくる。

 コート(上)とそれに使った布地(下左)と試し織り(下右)

 それから準備した裂糸で試し織りをし、気に入った配色を決めると、本格的に織り始める。パターンの繰り返しは、ある程度デザインする部分もあるが、織りながら決めていくことが多い。経糸は、布との調和から選んだ1色だけというのが中心だ。

 クリア・ファイルがある。台紙に貼られた”選ばれた布”と”試し織りされた布”が、隣り合って納まっている。裂織布の微妙な色合いの記録を眺めていると、「そのサンプルが、これになりました」と、コートが出てきた。色への拘りが、緻密に織られたコートに凝縮されている。完成した裂織布は、必要な長さにカットして売ったり、洋服などに仕立てられたりする。注文で服地を織ることもある。バッグやストールなど、用途によっては、布幅や厚み、組織を変えて織っている。裂糸の幅も、布や用途によってさまざまだ。

 インテリアに見られる地味な色への拘り。考え抜かれた工房。光を活かす織りへの取り組み。色やパターンについて、抑制のきいた精緻な裂織は、純子さんの人柄を彷彿させる。作家を囲む多くの環境の調和が、活動の土台となっている。そのことを痛感する訪問だった。

(撮影 飯 泉 仁)

戻る(裂織人を訪ねて)
戻る(ニュース23号)